思いつくままに

思いつくままに書きつらねていたり、自作のss(小説)を上げていたりします。

僕を待つ灯火

 十三歳の時、両親を交通事故で亡くして以来、僕はずっと祖母と暮らしていた。しかしそんな祖母も僕が十七歳の時、亡くなった。祖父は遙か前にすでに他界しており、僕はその時以降、ずっと一人だった。

 だから帰る時、家に明かりが灯っているなんてことはもう何年もなかった。

 暗い誰もいない家に帰り、明かりを点ける。迎えてくれる人も誰もいない。それが当たり前になっていた。

 だから、家の窓の、カーテンの隙間から明かりが零れているのを見ると今でもなんだか不思議な気分になる。

「ただいま」

 ドアを開け自宅に入る。すると

「おかえりなさい」

 そんな応答と共にパジャマ姿の彼女が玄関へと姿を現した。

「お疲れ様。お仕事、忙しかったのね」

「うん、まあね」

 それは事実だったが、僕はなんとなく言葉を濁す。

「ご飯食べる? それとも先にお風呂に入る? お湯は取っておいてあるけれど……」

「……」

 そう問いかけてくる彼女には答えず、そのままその華奢で柔らかい身体を抱きしめる。

「……」

 突然の行為にも関わらず彼女は抱きしめ返してくれた。

「……君が欲しい」

「ご飯食べて、お風呂に入ってもまだそういう元気があるのなら考えるわ」

 ぐいっと腕で押しやり僕の身体を離すと彼女はそう言った。そしてそのままリビングの方へと戻っていってしまった。

 拗ねたとかいきなり身体を求められて引いてしまったとかではなく、突然そんなことを言い出す僕を見て相当疲れているのだろうと彼女なりに気を遣って、ご飯の準備をしに行ったに違いない。 部屋着に着替えてリビングへ行くと、そこには僕の分の夕食が並んでいた。煮込みハンバーグ、にんじんのグラッセ、コーンスープ、白米。

 自分で準備せずとも出てくるご飯。向かいには麦茶が入ったコップだけテーブルの上に置いた彼女。

「君も仕事があったのに手が込んでるね」

「タネは昨日のうちに作っておいたの。でもちょっと夜遅くに食べるのには重すぎたかしら」

「別に……。もっと脂っこいものを食べることもあるし」

「そう……。ならよかったわ。でも夜遅くまでお疲れ様。デザートも食べる? おいしい物を食べるときっと元気になれるわ」

「何があるんだい?」

「期間限定の絹ごし白桃プリン。スーパーで見つけたから買ってきたの」

「君は限定物に目がないね」

「むぅ。でもさっぱりしていておいしかったわよ。食べる?」

「食べる」

「じゃああとで用意するわ」

 彼女はそう言って優しく微笑んだ。

 こんな風に出迎えられて気遣ってもらえて、それに安らぎを感じるなんて、相手がいるからこそだななんて考え、もう独りじゃないんだなと僕はそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

END.

 

 

 

 

お題配布元: 恋したくなるお題